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矢澤先生によるコラム 教えて!矢澤先生!

育種家として第一線で活躍する
矢澤秀成さんによる園芸の旬な情報をお届け

第57回「胡蝶蘭」をもらったら、どうする!?

みなさん、こんにちは!

園芸研究家の矢澤秀成です。

 

「幸福を呼び込む花」といえば、胡蝶蘭ですよね。

贈り物のイメージが強いので

自分のために買う人は少数派、なのかな?

私は昔からデスクの上に、ちっちゃな胡蝶蘭を

よく飾っていました。

胡蝶蘭のこども=プロトコームをバイテクで量産して

ラン業者さんに提供する仕事もしていたので

花の終わった胡蝶蘭を何度も復活させたりね。

ところで、みなさんは胡蝶蘭をもらったら、

その後、どうしていますか?

胡蝶蘭は初心者さんにも育てやすい花ですし、

せっかくいただいた贈り物ですから

ぜひ、もう一度、咲かせてほしいなと思います。

ということで、第57回は「胡蝶蘭」のお話です。

 

 

1:胡蝶蘭について

ラン科の多年草・胡蝶蘭の原産地は、

台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシアなどの東南アジアです。

開花期は不定期。

花の色は、ホワイトだけじゃなく、

赤、ピンク、黄色、紫、ミックスなど、いろいろあるんですよ。

もともと胡蝶蘭は熱帯のジャングルの高い木に

着生(ちゃくせい)して生育する着生ラン。

洋ランの多くは、バルブといわれる器官

(茎の大きくふくらんだ部位)に

水分や養分を貯めるのですが

胡蝶蘭はバルブを持たず、

肉厚の大きな葉に水分や養分を貯めて成長します。

常緑性で開花期が長く、

薄暗いジャングルでも育つのだから日陰でもよく育ちます。

もちろん、暑さにも強い。

だけど、反対に、冬の寒さには注意が必要です。

 

2:品種は多彩!

胡蝶蘭を品種で選ぶことは少ないと思うのですが

実は、結構あるんです。

贈り物用の白色の大きい胡蝶蘭のほかに、

小型品種や、ボリュームの多いミディ系などもあります。

デスクに置けるくらいの小さい鉢もかわいいですよ。

 

3:冬場は室内で管理しよう

通常、胡蝶蘭の花は1輪につき1カ月ぐらい持ちます。

後ろの方から前へ順々に咲いていくので

前方のつぼみも全て開花して咲き終わるまで

2〜3カ月くらい。

それほど長い間、花を楽しませてくれるので

開店祝いに喜ばれるんでしょうね。

しかも、手入れもカンタン。

 

ただし、置き場所だけは気をつけてください。

まずは、日当たりと風通しの良い場所を選ぶこと。

もともとジャングルの木の枝にくっついて生える花なので、

あまり直射日光が当たらない環境が好きなんですね。

風通しは良くしてほしいのですが

直射日光が当たっちゃうと葉焼けすることもあるので、

室内なら、レースのカーテン越しの窓辺とかがオススメ。

温室があれば、ホワイトの寒冷紗をかけて。

黒の寒冷紗でもいいんですけど、できればホワイトの寒冷紗で

日差しをちょっとカットしてあげましょう。

寒冷紗

次に、可能な限り室温を20度前後に保つことが理想です。

シンビジウムなどと比べると

胡蝶蘭にとって心地よい温度はちょっと高め。

原産地の環境になるべく近づけてあげることが大事です。

とくに、胡蝶蘭は寒さに弱いので

部屋の温度がなるべく10〜15度を

下回らないようにしてほしいです。

 

 

4:ラッピングは早めにはずしましょう

贈り物でいただいた胡蝶蘭には

透明シートなどのラッピングがかけてある場合が

ほとんどだと思いますが

それをそのままにしていると中が蒸れて

根腐れの原因になるので、できるだけ早めに

ラッピングをはずした方がいいですよ。

 

とはいえ、開店祝いなど、どうしてもラッピングを

はずせない場合は

底の部分にカッターなどで十字の切り込みを入れて

水が抜けるようにしましょう。

 

 

5:水やりは控えめに

胡蝶蘭の場合、ひとつの鉢の中に

3株ぐらい入っていることが多いと思います。

それぞれの株がビニールポットに入っていたりするので

水やりをする際には、柄の長いジョウロなどで

ポットごとに、ちょっとずつ水をやること。

多くの人が、鉢の中でわかれていることを知らず、

水をジャバッて一気にかけちゃうんだよね。

すると、1株だけ全く水がかかっていないとか、

そういう失敗をしてしまいます。

 

なので、私が勧める水やりの方法は、

タライに水をためて、そこに、胡蝶蘭を鉢ごとつけ込んで

吸水させる方法です。

30分たったら水から出して、しっかり水を切ります。

ただし、冬場は、水の温度をあまり冷たくしないように。

部屋の中に1日置いておいたような、

常温の水を使いましょう。

 

水につける頻度は、冬場なら2〜3週間に1回。

暖かくなってきたら10日に1回が目安です。

その際、ハイポネックスなどの液体肥料を

2000倍に薄めて、タライに入れておくと

葉っぱが充実して、いい花が上がってきます。

ただし、何度も言いますが

水につけっぱなしにしないように、

30分までにしましょう。

イメージとしては、東南アジアの

「雨季」を再現するつもりで

タライに貯めた水にチャポンとつけます。

ざっと降ってスグ上がるスコールみたいなイメージです。

30分経ったら水から上げることで

「雨季」の状態を人工的につくってあげるわけです。

なお、土がバークの場合と水苔の場合がありますが

どちらの場合もやり方は一緒です、

バークの方が吸収が早いんですけど、

水苔は一旦水をはじいちゃうので、

30分ぐらいつけた方がいいんですよ。

 

一方、暖房の効いた部屋に置いている場合は、

水あげの時に、霧吹きなどで葉っぱに水を吹きかけて

湿度調整するといいですよ。

 

他に気をつけることは、暖房の風を直接当てないこと。

同様に、夏場は冷房の風が

直接、当たらないようにしましょう。

 

冬の胡蝶蘭は、ほとんど成長しないので、

水のあげ過ぎには注意が必要です。

また、胡蝶蘭は寒いのが大っ嫌いなので

常温の水をあげてくださいね。

 

あと、室内に長く置いていると

葉っぱにほこりがたまるので、

たまに、濡らしたティッシュなんかで

軽くふき取りましょう。

その時、あんまり強くふき取ると

葉っぱが傷ついちゃうから優しくね。

 

 

6:もう一度咲かせるために

胡蝶蘭の花は、しおれてくると

触っただけでポロンと落ちます。

落ちた花がらは、ちゃんと拾って捨てましょうね。

そして、4月ぐらいに花が終わったら、

翌年、もう一度大きな花を咲かせるために、

下5 cm残してパチンと切っちゃってください。

花茎を5 cmぐらい残してね。

あんまり地面スレスレで切ると

そこから病気が入ったりするので

5 cmぐらい残し、清潔なハサミでパチンと切ります。

 

すると、ちょろっと、下から花芽みたいなのが見えてきます。

花芽が見えてきてからは

成長が本当にゆっくり、ゆっくりなんですよ。

忘れた頃に花が咲いていると思います。

ぜひ、もう一度咲かせることに挑戦してほしいですね。

ほったらかしでも結構、咲きますよ。

さすがに20日間くらい水やりしないと

パッサパサに乾いていますけど

少々、水やりを忘れても生きてくれる花です。

 

 

7:2〜3年に1度、植え替えよう

植え替えをするなら春から初夏にかけての頃がベストですね。

あったかいのが好きな植物なので

あったかい方に向かう時期がいいですね。

ただし、真夏はやめてあげてください。

 

植え替えのスパンは、大体2〜3年に一度ですが

水苔が黒ずんでいたり、カビが生えていたり

様子がおかしいと思ったらすぐに取り替えてくださいね。

 

苔など周りのものがキレイな状態だったら

根元をくずさず、そのままひと回り大きな鉢に入れて

周囲の土を足していく「鉢増し」でも構わないのですが、

鉢のサイズはあんまり大きくしたくないでしょうから

根をよくほぐして、水苔などの中身を取り替え、

同じ鉢に戻してもいいですよ。

胡蝶蘭は着生ランだから、

芯の部分だけ水苔で包んで鉢に放り込む、

それくらいの感覚で大丈夫です。

 

ただし、根っこの状態だけは

しっかりチェックしてほしいんですよね。

触ったら中身が空っぽだな、ってわかる根っこがあるんですよ。

そういうスカスカの根っこは切っていいんですけど

ブランブランとたくさん垂れてくる根っこは切らないで。

ジャマだから切っちゃう、って人が結構いるんですが

中がしっかりしている根っこ、

スカスカじゃない根っこは全部残しましょう。

 

なお、鉢はプラスティックより、胡蝶蘭専用の鉢の方がいいです。

素焼き鉢でもいいです。

素焼きの方が、根っこが鉢にペたってくっついてくれます。

さらに、水やりすると素焼きは色が変わるので

水やりのタイミングもわかりやすい。

私は素焼き鉢で育てていましたよ。

素焼き
陶器
プラスチック

 

8:肥料は少なめに

胡蝶蘭の場合、花が咲いている間は肥料をあげなくて大丈夫です。

着生ランなので、そんなにいらないんですよ。

水やりのところでお伝えしたように月1回、

30分だけ水につける、その際、2000倍に薄めた

液肥(洋ラン用、または普通のハイポネックス)を混ぜる、

それだけで十分です。

着生ランって、自然の中では雨水だけで育ってるんで

あんまりやり過ぎも良くないです。

液肥

 

9:もしもタネができたら

たまに、胡蝶蘭にタネがつくことがあります。

めしべがパカッと取れて、それが

雄しべにチョンとつくとタネができるんです。

虫のイタズラでつくこともあるので

もしもタネができたら、乾燥するまで待って、

乾燥したら採取して胡蝶蘭の根元にまくといいですよ。

胡蝶蘭のタネを普通の土にまいても何も出てこないけど、

胡蝶蘭の根元にはラン菌という、ランの菌があるので

そこにタネをまくとラン菌とくっついて

プロトコームという、ちっちゃなちっちゃな胡蝶蘭の

赤ちゃんが生まれる可能性が高いです。

そのままくっつけておくと

ちっちゃなランの形をしてきます。そうしたら、

それをピンセットでつまんで水ゴケの上に置いてあげると

徐々に大きくなっていきますよ。

 

 

10:病害虫対策

葉の中心部に水がたまると新葉が腐ることがあります。

ですから、葉っぱの中央部には

水を溜めないようにしましょう。

その水が、レンズのかわりになって

葉っぱを焼くこともあるので注意してください。

黒いシミができて、そこから葉っぱが

溶けちゃうこともあります。

 

それ以外の病気は、あんまりないかな。

 

気をつけたい害虫は、貝殻虫とナメクジ、ダンゴムシです。

ナメクジやダンゴムシがね、葉っぱを食べるんですよ。

一度、胡蝶蘭の鉢をひっくり返して

株をスポッと抜いたら、

鉢の中からたくさんのナメクジが出てきて、うわっとなりました。

だから、胡蝶蘭の鉢はときどきスポッと抜いて

何か住んでないかどうか見た方がいいですよ。

害虫が少ないうちに、こまめにチェックした方がいい。

また、ナメクジ、ダンゴムシは専用の薬剤で忌避して

部屋の中にナメクジを入れないようにしましょう。

 

第58回目は、エリカについてお話しします。

1月15日ごろ投稿ですので、次回もお楽しみに!

 

投稿日:2024年12月11日

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矢澤先生のプロフィール

ホームセンタータイム
ガーデンアドバイザー
矢澤 秀成 先生

矢澤 秀成 先生

現在、やざわ花育種株式会社、葉乃畑合同会社に所属し、代表取締役社長を務める。
種苗会社植物バイオ研究室に16年勤務し、多くの花や野菜を開発する。その間、国内新花コンテストで金賞を含む18回入賞、社内では社長賞2回受賞する。
種苗会社退職後、大手ホームセンター商品開発部長及び顧問、大手肥料メーカー顧問、パテント会社代表、野菜市場顧問、ガーデンセンター顧問などを歴任。多くの植物園などのヘッドガーデナーや監修を行う。
育種家として、多くの個性的な花や野菜、漢方薬などの新種育成を行っており、18年前から全国各地の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う。子供たち自身が交配して世界に一つだけの小さな種を作り、その種を大切に育て世界に一つだけの花を咲かせる授業を行っている。さらに「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、2002年から地域の花好きを育て、そして花の街を育てる「花のマイスター養成制度」を提案しスタートする。現在全国各地でマイスターを育てる花の学校を開校し、マイスターと共に花いっぱいの公園づくりや街づくりに取り組んでいる。
NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」、NHK長野「ひるとく」、BS-日テレ「麗しの庭散策」、SBCラジオ「ずくだせ エブリデイ」、篠ノ井有線放送「花暦」などの多くの園芸番組の講師として出演中。全国で講習、講演活動を多数行い、園芸関連多数執筆中。